番外地映画劇場

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日本沈没 1972年 <後編>【番外地日劇】

番外地日劇 2

2020.1.17

日本沈没 1972年 ネタばれありです。<後編>


【東宝特撮Blu-rayセレクション】 日本沈没

 本題の「日本沈没」ですが、前にも書いた封切りから数か月遅れて公開される、田舎の映画館で見た記憶があります。しかも、大人だらけで満員だった印象があります。当時の興行形態から考えて二本立てだったと思うのですが、これしか見た記憶がありません。調べたら、井上順主演の「グアム島珍道中」が同時上映となっていましたが、行列をしている観客のために、同時上映をやめて、「日本沈没」だけ上映して時もあったのかなと思いました。

 内容的には、子供だったので、地学や政治的な部分など、すべて理解して見ていたとは思えないのですが、特撮のスペクタルと緊迫したストーリーで見せていくので、分かったような錯覚を残す、ある意味、「泣く子も黙らせる映画」でした。主役の航海士を、子供になじみのある「仮面ライダー」の藤岡弘が演じていたのも大きかったのかもしれません。

 小林桂樹の田所博士とD計画※1のスタッフのドラマ、政府、総理と黒幕のドラマ、小野寺といしだあゆみ阿部玲子のドラマ、日本の国土が沈没する映像・・・・。どこに比重を掛けるのも、迷うところですが、うまいバランスで約2時間にまとめています。さすが橋本忍の手に脚本です。数年前に、書店の棚に原作本のカッパノベルズ上下刊が置いてあるのを見ましたが、約800ページありました。これを2時間くらいにまとめていることを、その時、知りました。これだけのテーマの話なのに、4か月の製作期間で完成させたそうですが、業界が斜陽になりつつあったとはいえ、製作者のレベルも高かったと感じました。

 日本が沈没する過程の映像も、実際の火山噴火を撮影した記録フィルムを使用している部分もありますが、短期間であれだけの映像を作り出した特撮班もすごいと感じました。

 最近、見直して気になったのですが、地震で難民となった東京都民が、皇居に押し寄せ、警備している機動隊ともみ合うシーンがあります。また最後に皇族の移住先を総理が言うシーンがあり、無くてもいいような気がする一方、どういう意図でこういうシーンがあるのか、大人の目線で感じました。原作には何か、書いてあるのでしょうか。気になりました。

 前半に、小林桂樹の田所博士ではなく、本物の大学教授が地球の構造を長く、説明するシーンがありますが、当時、子供ながらに違和感を感じました。素人でなくて、プロの俳優で撮影したほうがよかったような気がします。ただし、説明は非常にわかりやすかったです。

 一方、昔の役者はよかったとは、あまり言いたくはないのですが、俳優の演技もうまいように感じます。自分も含め、今の時代が総じて年齢と比較し、幼稚化しているのか、日本映画も、少女マンガのラブコメの実写版みたいのが多いせいか、または、強烈な役者の個性の差が見えなくなったせいか、この映画を見ていると、逆に演技のうまさを感じます。

 変わり者の田所博士の小林佳樹も、当時は「社長漫遊記」の喜劇のイメージしかなかったのですが、役作りがうまいです。田所博士も、内閣調査室と関係があるものの、型破りな御用学者なのですが、日本沈没を討論するテレビ番組で、否定派の御用学者に殴りかかるシーンがあります。原発事故後、テレビに出ていた、原発は必要と主張し、反原発の火消しに回っていた、原子力村の学者先生を思い出しました。

 いろいろと良いシーンはあるのですが、個人的に印象的なのは、次の二つです。

 丹波哲郎の総理と島田正吾が演じる日本の黒幕が、日本民族の将来について話すシーンです。僧侶、社会学者、心理学者がまとめた三つの結論の中の一つ、

「日本が沈没する事実を前に、日本民族は何もせず、そのまま滅ぶのがよい。」という結論を、無言のまま聞いた総理の目に、涙が溜まっていくシーンがありますが、映画でなくては表現できないシーンで、日本人である観客に、その意味を自分で考えさせるシーンと思いました。

 これだけの話をどう終わらせるのかと、ハッピーエンドでは終わらないと思って見ていました。最後のシーンは、別々の国でわかれ、めぐり逢えないえない小野寺と阿部玲子、そして日本人脱出に力を尽くし、負傷して顔に包帯を巻き、片目しか見えない小野寺の顔で映画が終わります。その時の藤岡弘演じる小野寺の片目が、国土はなくなっても日本民族というか、日本人は生きていかなければならないという強いメッセージと希望を感じさせる終わり方でした。

 

 海外ドキュメンタリーも好きで、テレビで、よく見ますが、政情不安や治安の悪い国から逃げてきた難民は大変だなと、他人事として見ていました。国土を持たない民族は迫害されることも多く、最近でもニュースになっています。

 しかし、これだけ災害が多いと、日本人が難民になる可能性はないとは言えないと思いました。映画では、オーストラリアから始まり、背広ではなく人民服を着た中国政府首脳、また今では消滅したソ連まで、数千万人の日本人難民を受け入れてくれた話になっています。しかし、仮に現実になったら、資産家しか海外に逃げられないような気がします。

 そうでなくても、少子高齢化で人口減少は避けられず、映画の中で出ていた

「日本が沈没する事実を前に、日本民族は何もせず、そのまま滅ぶのがよい。」という結論は、何も決められない日本人の国民性を現わしているような気がします。日本人は無意識のうちに、この選択をしているのかもしれません。

 ちなみに自分は、こんな時代なので、少子高齢化で人口減少していくのはやむをえないと思っています。(敬称略)

※1 D計画

 日本が沈没するまでの10か月以内に、1億人以上を海外へ脱出させる計画